一人親方は要注意!インボイス制度

インボイス制度のイメージ
オイカワ美装工業 IT・制作事業部長の佐藤です。
今日は、ちょっとタイムリーな社会ネタをひとつ。

今年(2021年)10月1日から始動する『インボイス制度』について、一体どんなものなのか、出来る限り分かりやすく?まとめてみました。
知りたい方のお役に少しでも立てれば、幸いです。

はじめに

『インボイス制度』を、ご存じでしょうか?

インボイス制度は、個人も法人も関係なく、事業を行っている主体全てに2023年から新しく適用される行政制度です。

最初にひとことで結論を言うと、この制度の本質は『消費税制度の厳格化』です。

これには非常に多くの人やほとんどの企業が直接関係し、かつ見方によっては相当キビシイ代物なのですが、その影響の大きさの割にまだ意外と知られていない、話題になっていないような気がしています。

この記事などをきっかけに早めに知っておき、備えるべき人は備えておくことをお勧めします。

※この記事は、2021年9月下旬に執筆したものです。しっかり勉強したつもりですが、もし内容に誤りがありましたらご指摘ください。

インボイス制度とは

1.誰に適用されるのか?

まず、インボイス制度というのは上でもちょっと触れたとおり、

消費税の納税

に関する制度です。

つまり、『消費税がかかるモノを売っている人や会社全てに』適用されるものです。
言うまでもありませんが、モノというのは物品だけでなく労務やサービスなども含みます。

さてここで、

『俺はフリーランスで○○の仕事をしているけど、年間売上1,000万いってないから消費税は免税なんですよ。だから、関係ありませんよね』

…という方。

いやいや、関係あるんですよ!

というより、今回の制度はそういう方こそが最も要注意なのです。

ぶっちゃけた話、個人で仕事をされている職人さんやクリエイターさんの多くが、

仕事の経費で必ず消費税を取られてキツいし、報酬の金額にはその分くらいを上乗せしているけど、消費税の納税はしてない。申告書も出していない…。

と、こんな感じなのではないかと思います。
(私もかつてまさに、そうでした。)

今はデフレ傾向やクラウドソーシングの普及などの影響で、仕事の単価も下がっていますしね。
年間1,000万円を稼いでいるような人も、あまり多くないのではないでしょうか。

今回のこの記事は、そんなあなたのために書いています。
ぜひしっかり、読み進めてください。

ちなみにこのインボイス制度は、消費税を納税する立場にない人、例えば財務や経理などとは無縁の仕事をなさっているサラリーマンの方などにはあまり関係ないと思われますので、知らなくても良いかも知れません。
モノを買うだけで売らない人には、関係のないお話です。

2.いつから始まるのか?

制度そのものが始まるのは、2023年(令和5年)10月1日から。

ですが、それに先駆けてちょうどその2年前の2021年(令和3年)10月1日から、

『適格請求書発行事業者の登録申請手続き』

が始まります。

この『適格請求書』というのが『インボイス』のことだそうで、そのためインボイス制度という呼称になっているようです。

3.適格請求書とは?

『適格請求書』とは、特定の要件を満たしつつ消費税が明示された請求書のことです。

モノを売るとき、売り手は買い手に対して請求書を発行しますが、インボイス制度が始まると、その請求書が『適格請求書』の要件を満たしていない場合、紙面に消費税と書かれていても消費税として認められなくなるのです。

その要件というのが、以下の2つ。

  1. 正しく計算された税額
  2. それが消費税であることを証明できるもの

1.の税額は、軽減税率などの制度に沿って正しく計算された金額のことです。

これは、既にほとんどの事業者が普通に請求書に記載していますよね。フリーランスで仕事をしている方などの業種では、ほとんどが10%で計算しているものと思いますが。

(※話を分かりやすくするために、今回は軽減税率の話等は省きます。)

そして2.が今回新しく追加で必要になる問題の部分で、要は

『この請求書で受け取った消費税は、きちんと納税しますよ』

…と、証明するもののことです。

具体的には、国に登録されている消費税納税業者としての固有の番号を請求書紙面に記載することで、証明することになります。

この『納税業者登録』とそれを経て交付される『事業者登録番号』こそが今回のインボイス制度のキモになる部分で、その事業者登録の申請受付が、2021年10月1日から始まるのです。

・・・・
では、上に書いた『請求書に消費税と書かれていても消費税として認められない』というのは、どういう意味なのでしょうか?

消費税として認められないと、何か問題があるのでしょうか。

大ありなのです。

それを知るためには、まず消費税というものの仕組みを知る必要がありますので、次の章で説明します。

既に知っているという方は、その次の章まで読み飛ばしてください。

『消費税』のしくみ

例えばあなたが何か商品を仕入れ、それを売って利益を出すとしましょう。
あなたは消費税納税事業者で、その利益の中から消費税を納付するとします。
(※本文の緑文字の部分が税抜き部分青文字部分が消費税分茶色の文字が合計分であることを念頭に置いて、読んでみてください。)

例として商品を8,000円消費税800円で仕入れ、10,000円消費税1,000円で売った場合、利益は11,000円8,800円2,200円となりますが、売上金額の中から消費税分の1,000円を全額納めなければならないのかというと、そうではありません。

仕入れに掛かった分の消費税800円(仕入税額)を納税額から差し引くことができ(仕入税額控除)、残った200円が、あなたが納税する金額になります。

なぜそうなるのかというと、差し引かれる消費税800円は、あなたではなくあなたに商品を売った業者さんが納税することになる分だからです。
つまり契約で消費税として上乗せされている金額は、お金が流れていく中でそれぞれの契約で生じた新しい部分(売った事業者の税抜き利益分に対する消費税)を、それぞれ分担しながら納税することになるということです。

これにより、最終的にあなたの手元に残る利益は消費税がのっていない売上金額から仕入金額を引いた金額(10,000円8,000円2,000円)になるわけで、よく考えてみれば当然の結果です。

これが、消費税の基本的な考え方です。

納付税額 = 売上税額 - 仕入税額

これを理解した上で、次に進みましょう。

インボイス制度が始まるとどうなるのか

インボイス制度が始まった2023年10月のある日、あなたはA社から依頼を受け、お客様に提供するサービスの作業を請け負いました。
その報酬として、

50,000円消費税5,000円

をもらう契約をしました。

一方A社は、

60,000円消費税6,000円

でお客様にそのサービスを提供する契約をしました。

すなわち、A社があなたの作業という『商品』50,000円5,000円で仕入れ、お客様に60,000円6,000円で売るわけです。
A社が見込む利益は、66,000円55,000円11,000円ですね。

・・・
さてあなたは予定通り無事に作業を終え、お客様も大満足。
契約終了で、めでたしめでたし。

そしてA社は、この売上に係る消費税を申告することになりました。

前の章で示したように、お客様からもらった消費税6,000円(売上税額)から、あなたに対して支払った消費税5,000円(仕入税額)を差し引いて、残った1,000円を納めようとするわけですが…

そこで、国からA社に対してストップが掛かります。

『ちょっと待ってください。その仕入税額の5,000円、本当に消費税なんですか?作業をしてくれた方(この場合、あなた)がちゃんと消費税として納めるものなんですか?もしそうでなければ、税額を少なくすることはできませんよ』

『作業をしてくれた方(あなた)に、5,000円が本当に消費税で、きちんと納税されるものだということを証明してもらってください

…そう、この突っ込みが入るのがインボイス制度なのですね。
制度が始まる以前は、こうした証明が無くとも仕入税額控除ができたのです。

消費税の説明のところで、消費税は『それぞれの契約で生じた新しい部分を、それぞれ分担しながら納税することになる』ものと書きましたが、A社が納付する税額を仕入税額控除で減らすことができるのは、その部分を『仕入元』であるあなたが納めるはずだからです。

さてそんなわけであなたは、A社から受け取った55,000円のうちの5,000円が、本当に消費税である(消費税として納めるものである)ことを証明しなければならなくなりました。

ここで必要になってくるのが制度の説明の最初の方で出てきた事業者登録番号(あなたが消費税を納めることを証明するもの)であって、あなたはA社に対して、これを記載した請求書(適格請求書を発行しなければならないわけです。

ところがあなたは、年間売上が1,000万円に満たない免税業者で、事業者登録番号も持っていませんでした。

あなたから『適格請求書』を受け取ることができなかったA社は消費税の計算で5,000円を差し引くことができず、お客様から受け取った6,000円をまるまる納税することになってしまいました。

あなたが事業者登録を行っていなかったせいで、仕事を依頼してくれたA社は5,000円損することになってしまったわけですね。
結果として、11,000円1,000円10,000円が税金を抜いた利益として手元に残るはずだったA社の目算は崩れ、11,000円6,000円5,000円となり、A社の利益は半分に減ってしまいました…。

後日あなたは、A社の担当さんから言われます。

『適格請求書を発行できないのであれば、今後は消費税分値下げしてください。でなければ、次からは適格請求書を発行できる別の事業者に作業を依頼することにします

レッドカード

零細事業者に選択を迫るインボイス制度

お分かりいただけたでしょうか?

国が、一つ一つの売り買いに遍く厳しいチェックを入れ、全ての契約に生じた消費税を余さず確実に徴収するために整えた制度。

それが、インボイス制度です。
もっと分かりやすく言うと、

『消費税を納めない業者は、これから先は消費税を乗せて売ってはダメですよ』

…と、いうことです。

2021年現在消費税を納税しておらず、報酬などで消費税分も受け取っていたような一人親方や個人事業者の方は、こういったものが近々施行されるということをよく覚えておいてください。

そして制度が実際に始まる2023年10月1日までに、以下のどちらかを必ず選ぶようにしましょう。

  • インボイス制度施行以後は、料金や報酬の消費税分は一切いただかない。もしそれまでいただいていた場合は、その分を値下げする。
  • これを機に消費税課税業者になり、事業者登録申請をして登録番号をもらい、請求書にその番号を記載するようにする(適格請求書を発行する)。またその後は毎年消費税申告書を提出し、納税するようにする。

(※課税業者に変更するにあたっての経過措置などもあるようですが、今回は割愛します。)

おわりに(雑感)

私個人は、過当競争でモノの値段がどんどん下がっていく一方の中、現実としてこれまでいわゆる『益税(消費者が事業者に支払った消費税の一部が、納税されずに事業者の利益となってしまうもの)』が零細事業者を助けていた側面も否めないのでは?と思っていたりもするわけですが…
いろいろと社会情勢が悪化してきている昨今、消費税という税制を行政にとって信頼あるものにしていくためにも、今回のインボイス制度導入はやむを得ないものなのかも知れません。

制度としての正しさは、よく分かります。でも、ますます厳しさが増していく環境の中で頑張っているたくさんの小さな事業者が、この制度が始まることでさらに締め付けられる結果になるような気がして、なんとなく割り切れないものがあるのもまた確かです。
消費税などを厳格化するより先にもっと取るべきところ、取れるところがあるだろ、って思うんですね。

というか今更こんなことを言うのもなんですが、そもそも消費税というもの自体が、この日本という国にそぐわない税制のような気がするんですよね。

もう長い長い間私たち庶民の心にずっとわだかまっている景気に対する閉塞感…まだまだ延長されていきそうな『失われたウン十年』は、平成元年から始まった消費税がその元凶の一つだと思うのは私だけでしょうか。

・・・・
今回は、ここまでです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事を書いた人

佐藤 純

佐藤 純

オイカワ美装工業 IT・制作事業部長。生まれついての学究肌と職人気質で、下手の横好きながら長年幅広くクリエイター(作曲・編曲家、デザイナー、マンガ家・イラストレーター、ウェブデザイナーほか)として経験を積んできました。主に裏方ではありますが、皆さまのお力になっていけるよう全力で頑張ります!

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